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岸上義弘 先生(2)

「この2年くらいから、少しずつ雰囲気は変わってきた」

岸上義弘先生2

J:先生は全国に留まらず海外へも引手あまたでご講演をされていますが、再生治療を取り巻く周囲の反応が何か変わったなとお感じになることはありますか。

岸上:この2年くらいからですかね。少しずつ雰囲気は変わってきた。花が開いてきたような印象を受けます。iPS細胞のお陰もあるのかもしれないですね。幹細胞ってそんなにすごいのかって。

J:岸上先生と言えば再生治療で骨折は勿論、脊髄損傷も多く手がけられてきました。例えば椎間板ヘルニアで従来の治療を行って回復の見込みが薄い子に対して間葉系幹細胞投与を行い、歩行可能にまでさせてきた症例が沢山おありです。

岸上:よく言われるのが、幹細胞を入れなくても立ったんじゃないのかと言われることです。ですから、あえて発症から1ヶ月経っても未だに立てないという症例にだけ、間葉系幹細胞の投与をしているのです。発症後1週間だったら処置なしで歩行が回復する可能性としてはありうると思いますが、1ヶ月間全然動かなくて、急に自然治癒というのはまず考えにくい。獣医の先生はそれを知っていますからね。

症例としては、グレードIVのトイプードルの子は典型的でした。この症例も発症から2ヶ月以上経過している症例です。この子は後肢が立てず、尻もちをずっとついていたので褥瘡ができていました。もともと褥瘡がかわいそうだからということで、うちにくれば治してくれると聞いたので御家族が来院されたんですね。麻痺を治して欲しいなんて一言も言っていなかった。私が「褥瘡は治しますけど、麻痺は治さなくていいんですか?」と聞いたら「エッ、麻痺が治るんですか!?」と。麻痺の治療は御家族が諦められていました。周りから治らないと言われ続けていた。「やってみますか」ということになり、幹細胞治療を実施しました。そしたら投与翌日に立つし、歩きだすし。御家族は「いったい何が起こったの!?」って。ただ、幹細胞の投与はどんな症例にでも効果があるわけではありません。やはり発症してから早い時期に細胞を培養し、投与する方がベターであることがわかってきています。また損傷グレードにも依存するデータがでてきています。

間葉系幹細胞

J:他にも幹細胞で色々治療をされていますが、椎間板ヘルニア以外で希望を持てる疾患などは?

岸上:脳ですね。中枢神経系の梗塞です。これは期待ができる。恐らくその背景のメカニズムには、投与した幹細胞が梗塞部位付近の血管を作っていくことが可能性として考えられます。小脳梗塞で重心が狂ってしまい、ばったんばったん倒れていたマルチーズの症例も、皮下脂肪由来幹細胞を投与して、状態が急速に良くなりました。これはMRI像で梗塞部位が減退したデータもあります。

あとは腎不全、これも面白いですね。ちょうど今日も猫の腎不全で間葉系幹細胞を入れた子が来院されてたんですが、御家族の方が「先生、あまり効果よくないわ」って言うんです。「そうですか」といってBUNやCREの数値を見るんですが、確かにあまり良くなっていないんです。ところが、その子それまで多飲多尿で透明な尿をしてたんですけど、「それに最近水も飲まないようになってきたし」って(笑)。「ちょっと待ってください。それってこうこうこう言う理由で効いているんですよ」って。「だっておしっこだって色濃いし、少なくなってきているんやし、どうなの先生?」「それ!!効いているんですよ!」。

J:そのおしっこが減ったというのも重要な指標の一つなわけですね。

岸上そうです。「まずはそこからなんですよ」って。以前やった猫の症例もそうだったのですが、脱水もなくなってくるし、点滴をする必要もなくなっている症例が増えています。典型的な多飲多尿の慢性腎不全の13歳の猫で、脂肪組織由来の幹細胞を3回静脈投与してみました。妻の弟の飼い猫でした。投与後、BUNの値が90から65くらいになったくらいで、数値としてはあんまりよくなっていないんです。だけど顔がガラッと変わったんです。けだるそうにじっと動かなかったのが毛づくろいをし始めたし、ご飯もよく食べるようになったし。弟も「顔が別の猫のようだ」って驚いていました。もちろんクレアチニン値やBUNなどの腎数値も大事です。だた数字よりももっと患者自身を見てください、という思いもあります。

J:数値には反映されにくいけれど、症状としては改善されている兆候が見られるということですね。現在ではアイオヘキソール投与を行ってGFR(糸球体濾過量)を測定したり、血漿中のシスタチンCの濃度を測定したりすることも実用化されています。そういったことも間葉系幹細胞の投与後の腎機能を測定するツールとしては有用だと思います。

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