J:先生の病院では、飼い主様向けのニュースなどの印刷物を出されたり、飼い主様への細胞治療の認知で意識して工夫して取り組んでおられます。
横山:色んな媒体を使ってどことなく病院の名前と細胞治療というワードを散らばせておいて、何かあった時にそこで思い出してくれるといいなと思っています。目の前に突きつけるというようなことはしないですね。すぐに反応してくれる必要もないと思っています。
J:以前にお話を伺って、特に病院スタッフの再生医療に対する体制作りはすばらしいと思いました。
横山:うちの病院では、細胞培養や細胞治療は獣医師、臨床検査技師、看護師、細胞培養士、また、海外の最先端の論文や知識を病院にとりいれる為の学術アドバイザー(理学博士)のメンバーで、再生医療チームを編成しています。こういったチームを編成したのは「スタッフを笑顔に」という考えがあったからです。片手間じゃなく、しっかりやりたいと思ったからです。細胞培養やっている他の病院の従業員に聞くと、面倒くさいって言うんですよ。手いっぱいなところに新しいことが入っているとスタッフは嫌いますよね。うちも培養を担当している看護師が夜遅くまで大変そうな姿を見て、これはちょっと違うなと。これは幸せになっていないと思ったんです。オーナー様だけが幸せになるだけでは意味がない。ならばチームを作って業務に差し支えないようにして、スタッフも幸せになるようにしたかったのです。そういう体制を組んで行うと決めたからこそ、きちんとマネジメントをして飼い主様に再生医療を選択していただくということが大切になってくる。そうしないと求められる治療になっていかない。求められるようになるための形作りがチームだったということです。
横山:再生医療チームとして獣医師、臨床検査技師、看護師、細胞培養士、学術員との連携が大切で、それぞれの話がつなげるためにはこのようなツールが必要です(上写真)。このツールがあることによって、それぞれが飼い主さんに治療の流れや状態きっちり伝えられるようになっています。特に、治療経過報告書というものを作製して、飼い主様にどういうことをしているかしっかり伝えられるようにしています(*さくら動物病院ではオーナー様にもわかりやすいように細胞の状態や写真、播種や継代の様子を1投与ごとにレポートを作成し、オーナー様にお渡ししている)。オーナー様にとって、実は細胞の写真はあまり重要じゃないんですけど(笑)、治療を受けている犬猫のいい顔の写真を見ると安心する。見え透いたことだけど、見え透いたことをする努力が大切だと思っています。如何に受け入れられるか、オーナー様の気持ちに寄り添えるかというということに関して、ここまでやると思いついたらやるべきだと思うんです。ここまでやっちゃう?というのが方針です(笑)オーナー様の心に浸透するような治療を望んでいます。
「全部繋がっている」
J:これから細胞治療を志す開業医の先生方、あるいは若い先生方にメッセージをお願いします
横山:最初は再生医療目的で来院してくれる人を増やすというより、細胞治療をやることにより、自分達のハードルが上がる、そのことによってモチベーションが上がる。スタッフも信頼していただく病院にならないといけない思うようになる。そのことによってオーナー様がついてくるようになり、最終的にオーナー様と信頼関係を構築する。そのようなよい循環をいかにうまく作っていけるか、だと思います。
再生医療はオーナー様との信頼関係を得るひとつのツールです。信頼は再生医療によって手に入れられるわけではないですし、また、再生医療や細胞治療だけが突出してはいけない。また、これらを導入したから全て解決、という短絡的なものではないです。例えばがん治療で活性化リンパ球療法をやるのであれば、三大治療がしっかりできなければならないと思っています。
価値があるものであれば、最終的に採算が取れると思うんです。細胞治療を導入することによって、他の所が上がってくる。オーナー様が笑顔になるし、動物たちも元気になっている。その目的以上にもっと重要なことは、病院がそこにあることによって周りも幸せになるということ。動物が幸せになると動物の家族が笑顔になる。そうすると世界が笑顔になる。全部繋がっていると思います。
J:今日は貴重なお話をどうもありがとうございました。
(インタビュー日:2013年8月7日)
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