有井良貴先生

「大学の基礎研究から臨床応用へ」

 J-ARM(以下J):細胞治療というとハードルが高いイメージを持たれる中、最近では細胞治療を検討される、開業間もない若手の先生方が増えてきています。先生方はどのようなことをお考えで、実際どのように治療に取り組まれているのでしょうか。今回はそのような若手の先生代表として、東京都世田谷区にある羽根木動物病院の院長、有井良貴先生にお話をお聞きしたいと思います。有井先生、よろしくお願いいたします。

有井先生(以下有井):よろしくお願いします。

J:先生は今年の4月に細胞治療を導入されました。現在治療を開始されてから8ヶ月になります。

有井:夜間救急病院等、企業病院の分院長などで10年弱の下積みを経て、3年前の2012年の1月に開院しました。細胞治療を開始したのは開業して3年目に入ってすぐ位の時期です。

J: 先生が細胞治療をご存知になられたきっかけはどのようなものだったのでしょうか。

有井:最初は購読していた雑誌の記事で知りました。その時はこういうものもあるんだな。と単に一情報として受け止めていた感じでした。接点でいえば過去に勤務していた病院が細胞治療のシステムを導入したことがあります。ただ僕が働いていた時は担当の先生が退職された後で、細胞治療は稼働していませんでした。クリーンベンチのUVランプがついてるなと、その程度の認識でした。

ただその後、細胞治療を担当されていた先生方のお話を聞く機会があったり、実際に再生医療学会に出席したり、何となく興味を持って情報は集めていました。後は大学時代の仲のいい友人たちがアカデミックな研究職に携わっていたことにも影響をしているように思います。彼らは遺伝子工学や臓器再生などの研究をしており、少なからず影響も受けていたと思います。僕も臨床に入って、傍らでそういう勉強はしようとしていたのですが、実際触れ合う機会が中々ありませんでした。

J: 先生自身も大学で細胞培養のご経験はお持ちとお聞きしています。

有井:はい。所属していたのが基礎系の研究室で、電子顕微鏡で細胞を確認したりPCRを行ったり、大分忘れましたが(笑)そのようなことを行っていました。細胞培養も12年たったのである程度忘れていましたが、過去に行っていたのでとっかかりとしては入りやすかったですね。

有井先生

J:感覚を思い出されるのでしょうね。先生が導入された際に決め手になったことは何でしょうか。

有井:世田谷という地域や周りで行っている先生があまりいなかったというのもありました。またインターネット上の病院のホームページから情報を拾われるので、熱心に自分の子のために治療法を探される飼い主様のお役に立てることができるのではないかという期待もありました。

J:具体的にお考えになる段階で当初細胞治療に期待されていたことは何かございますか。

有井:当初は猫の慢性腎不全に対する幹細胞治療ができればいいなと思っていましたね。きっかけはそうだったんですけど、病院にご来院される患者さんの症例から、実際稼働するのはリンパ球によるがん治療の方だなと思っていました。開院してすぐにがんを患っている動物が多くいる割にも関わらず、外科や化学療法の積極的でない飼い主様も一定数いらっしゃるなというのは感じていました。

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