有井良貴先生2

「飼い主様には満足し続けて頂いている」

J:次に実際行われた治療について踏み込んでお聞きしたいと思います。これまでどのような症例に適応されましたか。

有井:これまでに活性化リンパ球療法(CAT)を3例行いました。1頭は残念ながら途中で亡くなってしまいましたが、2頭はいまだに活性化リンパ球療法で治療継続中です。

J:続けて頂いているということは満足度を感じて頂けるのでしょうね。

有井:そうですね。1例目は猫ちゃんの脾臓の肥満細胞腫です。手術は行ったのですが、やはり肝臓に転移があり、術後しばらくしてから腹水貯留がはじまり、予後は厳しいということになりました。そこで選択肢として抗がん剤を行うか、何もしないか、活性化リンパ球療法を行うか。という3つを提示しました。

この飼い主様は前飼っていたワンちゃんも脾臓のリンパ腫で亡くされています。その時はオペ後に抗がん剤治療をされていました。抗がん剤の多剤併用で完解し、再発時にはレスキュー療法も行いましたが、途中で何度か副作用もあって、飼い主様もそれを気にされていました。加えて今回のネコちゃんに関しては慢性腎臓病、甲状腺機能低下症、肝機能低下などといった副症状もあるため、なおさら抗がん剤をやりたくないということだったんです。副作用がないのであればということで活性化リンパ球療法を行いました。

J:ご家族が抗がん剤治療をされているのを見ていらっしゃって、副作用の少ない治療を望まれる飼い主様もいらっしゃいますね。患者さんの臨床的な反応はいかがでしたか。

有井:細胞投与前はオペ後に腹水がたまっていたんですが、それがなくなりました。併発していた肥大型心筋症の影響か、胸水が溜まり、外科の時に明らかな肝臓への転移も確認しているので決して経過はよくないだろうと予想していたのですが、オペをしてから現在に至るまで9か月命を繋いでいます。

内臓型の肥満細胞腫は外科をすると1年くらい持つとも言われているのですが、術後から腹水まで溜まっているような子が果たして外科だけでここまで維持できたのかな、と思いますので、細胞投与の効果であるのではないかと考えています。腫瘍の状態的には末期なのですが、その割にご飯はもりもり食べて、苦しそうな様子もない。飼い主様には満足して頂いています。腎臓も悪く、甲状腺機能亢進症も併発しているネコちゃんの飼い主様が一番望まれたのが全身状態でした。そう言う意味でニーズには添えたのかなという風に感じています。今は2ヶ月に1回リンパ球を投与してコントロールしています。

J:他の2例についてはいかがでしょうか。

有井:他の2例に関しても飼い主様には行った満足感はあったようです。

1例は鼻腺ガンで脳に浸潤していて発作などの神経症状が起こっていた症例です。腫瘍が出来ている場所の難しさもありますし、飼い主様も外科や放射線治療には積極的でありませんでした。そこで症状進行を抑えて生存期間を延ばす可能性があるということで活性化リンパ球療法のお話をしました。その子は1クール(2週間に1回投与を6回)を終えた段階で亡くなったのですが、投与してからは発作がほとんど起こらなくなりました。投与前は抗てんかん薬を飲んでいても頻繁に起きていたのですが、投与後はそれが減ったということもあり、活性化リンパ球の効果はあったのではないかと考えています。

もう1例はイヌの脾臓の血管肉腫です。外科手術時にメトロノミック療法(休眠化学療法)と併用してCATを行っています。生存中央値は約半年で、この症例も6か月経っていますが再発の気配は全然ない状態でこれも奏効していると考えています。今は飼い主様の希望もあり、1か月に1回の感覚で投与を続けています。

J:3例とも先生ご自身、そして飼い主さまにも満足感を持って続けて頂いていますね。この治療を提案される時に飼い主様にはどのようにお話されていらっしゃいますか。

有井:まずお話するのは大きな副作用がない、ということですね。効果もがん細胞を消滅させたりすることは難しいけど、進行を抑えたりすることができるかもしれないとはお伝えしています。地域柄もあるかもしれないですが、そのような説明をさせて頂くとすんなり納得され、「是非、お願いします」というオーナー様が多いです。

J:細胞治療は進めていく際に獣医師と患者様の信頼関係の構築が大変問われる治療だと感じています。先生のお話に飼い主様は納得されるのですね。

有井良貴先生2

「ものを育てるのが好きなので、細胞が増えていると嬉しい」

J:次に培養についてお聞きしたいと思います。先生は細胞治療を行うためにお部屋も準備され、病院の培養室としては広い空間を確保して頂いています。

有井:場所としてはちょうどいいですね。

J:細胞培養の操作上で何か戸惑われたことはございましたか。

有井:最初行った時はあまり増えなかったのですが、コンタミもなく、今は順調によく増えています。今思えば何が違っていたのかはよくわからないですが。回数を積んで慣れてきてもいるので、培養操作にとられる時間もそれほどないですね。

J:先生の病院は非常勤で2名の獣医師の先生が見えますが、細胞培養の業務は全て院長先生が担当されています。先生の日常のご診察の業務に支障はないですか。

有井:今のところないです。昼休みなどにオペの感覚で培養を行っています。活性化リンンパ球療法(CAT)はそれほど時間がかからないですね。採血の際は毛刈りをして、少し皮膚が悪い子はオペするときと同じ方法で消毒するなど、意識して気をつけるようにしています。

J:細胞治療は自分の病院ですすめたいけど自分が培養することを思うと煩わしくてすすめにくい、という先生もいらっしゃいますが、先生はいかがですか。

有井:培養自体は派手なものでもないですし、好き嫌いもあるかもしれないですね。僕はものを育てるのは好きですし、順調に増えていると嬉しいですね。

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