「あきらめる必要はないんですよ」

J:岸上先生は全国でご講演なども沢山されているので、色んなところから噂を聞きつけて御家族がいらっしゃるとは思うんですが、御家族への細胞治療へのアナウンスで何か取り組まれていることがありますか。

岸上:いえいえ、講演には御家族が集まって来られるわけではないのです。そうですね、今はアナウンスは特にしていないですけど。もう少し市民向けに何かやっていかなくてはと思っています。

J:もっと再生治療の認知度を上げていきたいとお考えですか。

岸上:そうですね。今まで諦めていたのが「あきらめる必要はないんですよ。こんな治療もあるんですよ」ということをもっと色んな方に知ってほしいですね。それと、御家族に治療のお話をする際には、「こんなふうに効きましたよ」という過去の症例についてのプレゼンは必ずします。元来この治療はダメージが少ないんですよ。きつい薬も使わないし、大きな外科手術も要らないし、元を正せば動物本来持っている自己治癒能力を生かすだけなんです。体にダメージが少ない治療というのがやはり大きなポイントだと思います。小侵襲というんですが。例えば抗がん剤は「侵す襲う」の典型ですからね。10年20年後になれば、「抗がん剤なんて、昔には有ったんだね」という話になっていると僕は思っています。

岸上獣医科_培養室

J:今後J-ARMに求めることをお聞かせ頂けますか。

岸上:今後研究開発をもっと充実させて欲しいですね。いい研究を期待しています(笑)。例えば基本的なところでは、細胞培養の技術差をどう埋めていくのかを研究して欲しいですね。ちょっとしたところで差ができてしまうこともあるので、そこをしっかり啓発し続けて欲しい。

J:そこはぜひがんばります。今後再生治療でこのような病気を治していきたいなど、治療のビジョンについてお聞かせください。

岸上:コーギーの変性性脊髄症(DM)はもう少し深くやってみたいですね。これも間葉系幹細胞投与で効果がはかれないかと。それとネコの腎不全は多いですし、やっぱり腎不全をもう少し深めてみたい。超慢性の子に対して投与方法などを工夫すれば治療成績を上げられるかもしれないと思ったりもしています。腎臓は中胚葉系の細胞なので、脂肪由来の幹細胞は分化する能力はもっているはずです。ただ実際の投与量としては少ないので、細胞から分泌されるサイトカインなどの効果が大きいのだろうと考えています。

 

「本来持っている自己治癒能力を信じる」

J:最後にこれから再生医療を導入されようとする先生方や若い獣医師の先生方にメッセージをお願いします。

岸上:今まで治らなかった病気がこういう細胞を用いた治療によって治ることが素晴らしいことだと思っています。昔は私自身も高い薬やきつい薬を使っていましたけど、結局効果的には芳しくありませんでした。その個体の持っている幹細胞を使って治療をすることがいかに効果があるか、ということは実感しているので、そういった治療に将来的に切り替わっていくのではないかと思っています。手術している場合じゃないし、抗がん剤を使っている場合じゃないぞという感想を今持っているので。つまり我々が治してやっているんだという傲慢さを捨て去り、我々は単に動物の自然治癒力をサポートしているだけなんだということに気付くことです。従来のいわゆる「エビデンスのある」治療を丸ごと信じきってしまうよりも、その個体の自己治癒能力を信じたほうが僕はいいと思いますね。学者が作ったエビデンスより、自然は最高のエビデンスそのものです。「エビデンス=過去の論文」と考える人もいますが、それって所詮は人が考え、人が審査したもの。私はエビデンスを自然から教えてもらっています。

過去には想像もできなかった治り方をする重症難治症例。そういう症例もこれから日本中で世界中で、どんどん出てくると思いますので、皆さんと一緒に症例検討し、一緒に勉強していきたいです。

J:今日は貴重なお話をどうもありがとうございました。

(インタビュー日:2013年7月23日)

 

岸上義弘3

岸上獣医科病院
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