横山篤司先生

「動物とオーナーに優しい治療とはなにかをずっと考えていた」

 
J-ARM(以下J):横山先生は精力的に細胞治療を進められて、臨床のことは勿論、飼い主様に対して院内での取り組みにおいても我々が教えを請うこともたくさんあります。今日はそのあたりのこともお伺いできればと思います。

 横山先生(以下 横山):よろしくお願いします

J:先生は酪農学園大学獣医学科を卒業後、現在の小動物臨床医になられるまでに長野県職員というキャリアを積んでこられました。

横山:最初は開業医になろうとは考えていませんでした。元々父親が獣医師(長野県職員)で、よく自宅で顕微鏡をのぞいていて、その姿に憧れて獣医学科という進路を選択しました。最初は小動物臨床には全く興味がなく、長野県に入庁して、食品衛生や狂犬病の予防業務を務めていました。

あるとき、保健所と動物愛護会主催の愛犬しつけ教室を企画・開催したんです。そこで自分の持っているわずかな知識をオーナー様に提供することで、喜んでもらうという経験をしたんですね、すごくそのことに対してやりがいを見出して「何か人にサービスする仕事がしたい」、と思い色々考えていたら、自分が「獣医師免許」を持っていることに気づき、そこから開業医になろうと思ったんです。開業医は動物のみならず、一緒に暮らす家族を幸せにすることができる最高のサービス業であると思っています。結局、人より10年遅れて臨床の世界に入りました。

J: 再生治療にご興味をもたれたきっかけはどういったところでしたか。

横山:細胞治療については最初あまり興味がありませんでした。ところが、臨床をやってる先生方はご存知だと思うのですが、実際のところがん治療に関して、外科で切る治療を望まない飼い主さまもいらっしゃるんです。三大治療と言われている治療自体に対して消極的になっていると言うのかな。そこで「動物とオーナーの気持ちに優しい治療」というのは何だ、というところをずっと考えていました。そこに免疫細胞療法が具体的に自分の病院でも可能だということを知りました。そこから細胞治療を取り入れていくようになりました。

J:細胞を用いた治療で先生が大事にされていることをお聞かせ頂けますか。

横山:どんな治療でも根っこの部分はこの先生だったら大丈夫だという飼い主さまとの信頼関係だと思っているので、いかに病院でちゃんと伝えるかが大事ですね。再生治療に限らず他の治療においてもそうです。それが小手先のことをやるから失敗する。それができないなら再生治療をやるべきではないと僕は思います。オプション(選択肢)の治療だと思っているから、正直僕は細胞治療で一儲けできないと思います(笑)。ただ、そこで飼い主さまと信頼関係を結んで別の波及効果として考えれば経営としてのツールとなるはずだと考えています。
そして、常に自分自身やスタッフに言い続けているのは、再生医療は一番ではなく特別ではなく、これは「治療オプションのひとつ」であるという事です


「飼い主様の選択肢を尊重したい」

J:オプション(選択肢)という言葉が出てきましたが、そのような治療法は臨床を行う上で非常に大事なことなのでしょうか?

横山:そう思います。まず、オプションを増やすことによる効果ですが、例えばがん治療だったら三大治療の緩衝材となり、選択しようかしらという風になるんですよ。腫瘍を切れば治るような子がいるとします。三つの選択肢だけでは外科手術を行うことを拒んでいたのを、免疫細胞治療という新たな選択肢を提示することでオーナー様が外科手術を選んでくれるようになるんですよ。またオプションを提示することによって、結局自分が選んだものに対してオーナー様が責任を持つようになるというのもあります。僕たちの力はいかにこれらの治療を並べられるかです。基本的に飼い主様の選択肢を尊重したいと思っているので、全部バイアスをとっぱらってニュートラルに説明しています。全部リスクとかメリットを並列に並べて説明して、さあどうしましょうか、という感じで選んでもらっています。

J:免疫細胞療法をオプションの1つとしてご提示される際に、実際に選択されるオーナー様の反応はどのようなものなのでしょうか?

横山:正直最初は免疫細胞治療を勧めていましたけど、今はこれ一本推しというわけではないです。だけど選ばれる方多いですよ。オーナー様もうちの子に長生きして欲しい、もう1回ご飯を食べさせてあげたいという気持ちがあるんです。抗がん剤みたいな一般的に良くないイメージの治療を使って、もしその結果その子が亡くなったとすると、そのせいなのかということも考えてしまう。そこにオーナー様の気持ちを和らげる治療の役割は重要です。手術または抗がん剤とセットで免疫細胞療法をやりましょうという提案をすると、オーナー様は安心するんです。

横山篤司先生4

最近体内の環境を整えるという意味合いで、高濃度ビタミンC療法もやり始めました。だけど僕自身はやはり西洋医学が一番だと思っています。西洋医学はエビデンスがありますよね。ぼくら獣医師は論拠のない治療をやるべきではないと思っています。ただ、論拠がなくても免疫細胞治療みたいに安全度が高いものであればひとつの治療として、俎上に載せることができると思うんです。第一選択ではないですが、スタッフにはその患者さまの治療のきっかけ作りだと話しています。

J:抗がん剤に対して色々なお考えをお持ちの先生方がいらっしゃいます。

横山:僕は化学療法・手術は否定するべきではないと思います。やはり論拠のある治療をしなければならない。ただ、がんの治療で言うともう少し免疫力をつけて、10の効果があればうちの13くらいまで効果が上げることができるんじゃないかという考え方をすることは、治療において十分意義がある。また、化学療法・手術でもうまくいかない症例がある。こういう時に免疫細胞治療の持つ意味が発揮されてくると思います。

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